第31回 軽井沢で楽しむオールショパンプログラム

2014年11月2日、秋も深まった軽井沢で「第31回 軽井沢で楽しむオールショパンプログラム」が開催されました。今年の紅葉は例年よりやや早く、10月下旬に最盛期を迎えたところもありましたが、当日は一足遅れのもみじがちょうど見頃となりました。
出演は昨年秋と同じく小林美恵さん(ヴァイオリン)、長谷川陽子さん(チェロ)、仲道祐子さん(ピアノ)のトリオ演奏でした。
 
             
第一部
序奏と華麗なる大ポロネーズ 作品3 (Vc&Pf)
チェロソナタ 作品65 (同)
       - 休憩 - 
第二部
ノクターン20番 遺作 (Vn&Pf)
ノクターン2番 作品9の2 (同)
ワルツ14番 遺作 (Pf)
ピアノ三重奏曲 作品8 (Vn&Vc&Pf)
アンコール
エルガー 愛の挨拶
(Vn&Vc&Pf)
バッハ 管弦楽組曲第3番 第2楽章 G線上のアリア (同)
   - 奏者を交えたティータイム - 

話は前後しますがコンサートの終盤に長谷川さんがコメントしたように、はつらつとした若きショパン作品と最晩年の傑作までの弦楽作品をほぼ網羅したコンサートとなりました。ショパンはチェリストの友人が多かったというお話も印象にのこりましたが、これだけ多くの美しい作品を書き残したショパンは、どうしてヴァイオリンのための作品を一曲しか書いてくれなかったのだろうという小林さんの感想も大いにうなづけました。そして私たち3人が現時点で弾き得る限りのショパンを演奏したという仲道さんの言葉に、今回の演奏の充実感が示されたようでした。                          

さて第一部は赤いバラの刺繍をあしらった黒のドレスの長谷川陽子さんと、鮮やかなブルーのドレスの仲道祐子さんによるチェロとピアノのデュオでした。          1曲目の初期作品「序奏と華麗なるポロネーズ」では、ピアノとチェロの躍動感が若きショパンの勢いそのものを見るようでした。この曲は長谷川さん自身がかつてお子さんの出産中に分娩室で聴いていたそうで(長谷川陽子著「チェロの森」参照)、序奏部分のチェロの第一声から伸びやかな音色が聴き手を魅了しました。ショパンは貴婦人のサロン用小品に過ぎないと手紙に綴っているようですが、技巧的にも装飾的にも十分な内容を備え、二人の躍動感溢れる演奏を聴いてほぼ同時期に作曲された「アンダンテスピアナートと華麗なる大ポロネーズ 」に匹敵する名曲だと思いました。                                       ショパン最晩年の傑作と言われる「チェロソナタ」では二つの音色がますます冴え、対位法と転調が織りなす複雑な構成を、ショパンが死を間近にして作曲したとは思えぬほど生命力溢れる作品に仕上げてくれました。第一楽章ではチェロの深い響きとピアノの端整な音色が絶妙に交錯し、特に展開部での応酬は私たちを夢中にさせてくれました。第二楽章ではスケルツォ部の切迫感と、ピアノのアルペジオに彩られたチェロのカンタービレが印象的で、個人的にはこの第二楽章が全楽章中一番気に入りました。変わって第三楽章は緩徐楽章となり、ノクターンを思わせる抒情的な雰囲気が声部の絶妙な入れ替わりの中で美しく歌いあげられました。続く最終楽章では第一楽章を彷彿させる複雑さをものともせず、時には相対し時には補完し合いながら前へ前へと進んでいく二人の勢いに圧倒されました。そして終盤以降、両者のテンションはさらに高まり、ショパン作品最後のコーダへと明快に導いてくれました。 ショパンはチェロ以外にも当時ヴァイオリンとの作品を着想していたそうですが、それも叶わず奇しくも最晩年の代表作となったこの「チェロソナタ」、まさに1年がもっとも美しく彩られ、やがて散って行く紅葉の季節に似つかわしいと感じました。 
 
                        

休憩を挟んで第二部は落ち着いたワイン色のドレスをまとったヴァイオリンの小林美恵さんと、仲道祐子さんのデュオで幕開けしました。1曲目の「ノクターン20番遺作」はヴァイオリンの艶やかな音色と上昇下降パッセージのきめ細やかさが際立っていました。また2曲目の「ノクターン2番」では音色がさらに広がりを放ち、装飾音の美しさと、シルクのような16分音符の繰り返しに聴き手は酔いしれました。
続いては仲道祐子さんのピアノソロ「ワルツ14番」の演奏でした。アンコール・ピースとしてもよく使われる演奏効果の高い曲を、当日はプレイエルピアノの調子が今一つにもかかわらず、クリアーなタッチで難なく弾きこなしました。その華やかさからドラマチックに弾くピアニストも多いのですが、仲道さんの14番は上品に仕上げられ、その繊細で真っ直ぐな曲想に好感を覚えました。

    
 

今シーズンの最後を締めくくる「ピアノ三重奏曲」は二つのピアノコンチェルトとほぼ同時期に作曲された作品で、ショパンがワルシャワ時代に書いたものです。第一部で演奏された「序奏と華麗なるポロネーズ」や、もとはピアノと管弦楽用に仕上げられた「アンダンテスピアナートと華麗なる大ポロネーズ」もほぼ同じくして書かれていますが(または着手されている)、「ピアノ三重奏曲」は若きショパンが初めてヴァイオリンを加えたトリオに挑んだ意欲作と言えるでしょう。そして小林美恵さんを加えた当日の三人の演奏もそれを十二分に体現したもので、協奏的作品をコンチェルト以上の迫力で聴けたのは幸運でした。特に第一楽章から三人のテンションは高く、ユニゾンで始まる短い冒頭主題は今日の演奏会に向けた意気込みを凝縮した響きでした。展開部の各パートの受け渡しも非常にスムーズで、再び第一主題が現れてからの緊迫感はショパンの気迫を目の当たりにしたようでした。 打って変わって第二楽章は三人の一糸乱れぬハーモニーが、秋の陽だまりを感じさせる幸福感をもたらしくれました。続く第三楽章も牧歌的な雰囲気が美しく、冒頭の疑問符的なモチーフを繰り返しながら、より深みのある音色を随所に響かせてくれました。最終楽章ではポーランドの民族舞踏・クラコヴィアクを思わせる主題が何度も再現されながら各パートが融合してゆく様に、人々の踊りがクライマックスに向かって一つになって行くイメージを感じました。「ピアノ三重奏曲」ではその完成度とともに、聴き応えのある骨太な作品にまとめ上げた三人の気迫と技量に聴き手は感動しました。

    
 

アンコールの1曲目はエルガーの「愛の挨拶」でした。大作「ピアノ三重奏曲」の直後に聴く軽やかなエルガーは、一服の清涼剤のような爽やかさを与えてくれました。またバッハの「G線上のアリア」は私たちの涙腺を刺激し、敬虔な祈りの世界へと導いてくれました。当日は本コンサートチラシ(最上部写真参照)の背景画像に教会写真を快く使用許可下さった「聖パウロ教会」のカルロス神父もお見えになり、秋を彩る紅葉を小林美恵さん、長谷川陽子さん、仲道祐子さんによるバッハのアリアを聴きながら見届けることが出来たのも幸運でした。素晴らしい演奏を披露してくださった3人と、多くのお客様に心より感謝申し上げます。

【2014/11/23 22:23】 コンサート報告 | TRACKBACK(-) | COMMENT(-)
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