第22回 オールショパンコンサートのご報告

年が明けて早くも2週間が過ぎました。今年は寒さが厳しく、軽井沢も氷点下10℃を切る夜も少なくないようです。しかし寒い冬ほど春の訪れが待ち遠しいもの、GW以降のコンサートにしばし想いを巡らす毎日です。
さて前回に引き続き、昨年の「軽井沢で楽しむオールショパンプログ」のご報告をさせていただきます。今回は2012年8月18日開催の、ピアノとチェロによる演奏会です。

8月18日 第22回 軽井沢で楽しむオールショパンプログラム
=仲道祐子さんのピアノと、長谷川陽子さんのチェロによるショパン名曲集=

第一部 ピアノ
バラード 第3番 作品47
ノクターン
第2番作品9-2
即興曲
第1番 作品29
即興曲
第2番 作品36
即興曲
第3番 作品51
幻想即興曲 作品66
スケルツォ 第2番 作品31 
         〜休憩〜
第二部 ピアノ&チェロ
序奏と華麗なるポロネーズ 作品3
ノクターン
第20番嬰 遺作
 「レント・コン・グラン・エスプレッシオーネ

チェロ・ソナタ 作品65 

アンコール ピアノ&チェロ
シューベルト 夜と夢
ドヴォルザーク 歌劇「ルザルカ」より、月に寄せる歌
ポンセ/ハイフェッツ編 エストレリータ

第22回は前半に仲道祐子さんのピアノソロ、後半にチェリストの長谷川陽子さんが加わったオールショパンプログラムとなりました。
前半にプレイエルピアノを演奏した仲道さんは、2011年の夏もピアノソロでリスト編曲の6つのポーランドの歌や、スケルツォ全4曲を演奏して聴衆を魅了しましたが、今年は即興曲全4曲などを披露して、昨年にもまして洗練されたショパンを聴かせてくれました
。 

   
  
 

冒頭のバラード3番では、混じり気のない音色で、各調性の織り成す変化を伸びやかに表現していました。 クリアでストレートな表現はプレイエルピアノの高音をさらに生かし、サロンコンサートのスタートにふさわしい、優美な演奏となりました。
ポピュラーなノクターン2番では、繊細なタッチで当時のサロンの和やかな雰囲気を偲ばせてくれました。
即興曲4曲の演奏前に仲道さんから、指揮者バーンスタイン曰く、クラッシックとは作曲家の意図を可能な限り楽譜に記したものであるとの説明がありました。そしてショパンの即興曲というタイトルはあくまで即興曲風にという意味であり、 譜面に示しきれていない部分を演奏家がどのように表現するか、そして聴き手もにそれを如何に楽しむかがクラッシックの面白味の一つであると話がありました。 
さてスケルツォ1番の演奏では、主題の3連譜と右手パッセージの流麗さ、そして全体を通して滑らかなスピード感が印象的でした。2番では第一主題の牧歌的な旋律と、後半の32分音符の宝石を散りばめたようなパッセージが際立っていました。ショパン円熟期の傑作の一つと言われる第3番では、複雑で多くの転調を伴う難曲を、パラード3番同様、繊細かつクリアなタッチで色彩感豊かに表現していました。有名な幻想即興曲では、冒頭の3連譜と16分音符の囁くような旋律に各音のキメの細かさを、そして効果的なルバートを多用した展開部に、優美で洗練された流れを感じました。
第一部ラストのスケルツォ2番では、女性としては大きな手で奏でる冒頭の力強さ、そして第一主題の音域の広いアルペジオに彩られた旋律の優雅さが印象的でした。さらに詩的な中間部を経た華々しいコーダへの盛り上がりが、聴き手を作品世界に引きずり込んでくれました。
今回の仲道祐子さんの演奏は、前年の華やかさにいっそうの流麗さを加味し、新たな説得力を生み出したように思えました。 


休憩の後、第二部ではチェリストの長谷川陽子さんが加わりました。 
確認されているショパンのチェロとピアノの為の作品は3曲存在し、そのうち最もポピュラーな2曲とさらにノクターン遺作の編曲版を、第一部に続いて仲道祐子さんのピアノと長谷川陽子さんのチェロを至近距離から聴けるという、ショパンファンにとっては贅沢なプログラムとなりました。
一曲目の序奏と華麗なるポロネーズは、ショパン自身が「ご婦人向けの、サロン風の華やかな曲」と説明していますが、長谷川さんのチェロの音色が響き渡った瞬間、作曲家の意図に沿った演奏になると想像できました。その伸びやかで明るい音色は、人間の声域に近いと言われるチェロの表現力を超えた、一種の歓びすら感じるものでした。ポロネーズ部分に入ってからも仲道さんの奏でるプレイエルピアノとの掛け合いやユニゾンにもいっそう息が合い、躍動感に溢れた演奏となりました。 

     

その後の長谷川さんの挨拶で、控え室も演奏会場もお客様との距離が大変近く、自分も出演者でありながら半分はお客様のようだという言葉が、アトリエブルックスのコンサートそのものを形容していました。
2曲目のノクターン20番遺作の演奏では、普段はプレイエルピアノで奏でられる哀調帯びた旋律がより身近で落ち着いたものに感じられ、チェロという楽器の特徴を印象付けました。
続く後半メインのチェロソナタは、ショパンが生前最後に自ら作品番号65を付けて発表したと言われる大作、しかもパートナーに選んだ楽器がチェロだったというところにショパンの強い思いが伝わります。また最晩年の作品ということもあり構成も複雑で難解、ピアノもチェロも高度なテクニックを要求されることでも知られており、親友のチェリストであるオーギュスト・フランコームと自ら初演したショパンは、この第一楽章を割愛せざるを得なかったほどでした。チェロソナタの作曲でショパンは心身ともに疲れ果て、人生の歩調までをも早めてしまったのかもしれません。 
さてその第一楽章では、ピアノとチェロの高度な対位法が、双方の絶妙なバランスとタイミングを生かして魅力的に展開されました。特にチェロの自由で伸びやかな音色とピアノの的確でストレートなタッチが、劇的とも言える内容の濃さをいっそう際立たせていました。スケルツォ形式の第二楽章では、奏者の息遣いまでもが伝わる第一主題の緊迫感と、展開部のピアノの流麗なアルペジオに彩られたチェロの艶のある響きが印象的でした。また緩徐楽章の変ロ長調第三楽章では、チェロの深く慎み深い音色と、フォーレやラフマニノフを予感させるメランコリックな旋律に、聴き手は大いなる安らぎを得ました。最終楽章では、ピアノとチェロの緊張感ある掛け合いが、第一・二楽章に続いて再び展開されました。細かい転調を繰り返しながら、よりいっそう複雑に入り組んだ関係は決してバランスを崩さず、それでいて自由で伸びやかな演奏は、長谷川さんと仲道さんのデュオの特徴の一つかもしれません。その様は最終楽章のコーダまで妥協を許さず、今回のメインにふさわしく、あらためてショパンがチェロを好んだ理由が納得できる、華のあるコンサートとなりました。  

続くアンコールでは、このコンサート直後からレコーディングに入るという長谷川陽子さんのニューアルパム「シャコンヌ」(現時点では既に発売済)から三曲が披露されました。
いずれも伸びやかなチェロの音色が印象的でしたが、ドヴォルザーク作曲の歌劇「ルサルカ」からの「月に寄せる歌」がとりわけ心に迫りました。王子に恋した水の精ルサルカの切ない気持ちがストレートに伝わり、通常はソプラノ歌手が担当するアリアが、チェロでも存分に謳われる実力を示しました。
またレコーディングでもピアノを担当した仲道祐子さんの伴奏も、端正なタッチから紡ぎだされる繊細でクリアな音色が、長谷川さんのチェロとの十二分な相乗効果をもたらしていました。     


なお同じく昨年の8月25日に開催された「番外編 軽井沢で楽しむオールショパンプログラム」のご報告は、1月20日過頃にUP予定です。 
    

 

【2013/01/13 02:35】 コンサート報告 | TRACKBACK(-) | COMMENT(-)
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謹賀新年&2012年のショパンコンサートのご報告

2013年、明けましておめでとうございます。
今年も自宅のある神奈川県で新年を迎えました。年末に風邪をひいて体調を崩しましたが、天気の良い穏やかな正月を過ごすことができました。 
写真は元旦に近くの山から撮影した相模湾ですが、水平線に小さく大島が浮かんでいるのがお判りでしょうか? 
大島が見える日は空気も澄んでいるということ、この一年が澱みのない平和な年でありますよう祈らざるをえません。
なお今年のオールショパンコンサートは、当サロンではすっかりお馴染みの天才ピアニスト・横山幸雄さんの4月29日の演奏を皮切りに、現時点で4回を予定しています。
また8月には3年ぶりに仲道郁代さんも登場予定、2013年もアトリエブルックス軽井沢ギャラリー&サロンで、皆様のお越しを心からお待ちしております。
 
             


さて話は前後してしまいますが、大変遅ればせながら昨年のオールショパンコンサートのご報告をさせていただきます。
昨年はGWと7月に1回ずつ、そして8月に2回と、計4回のコンサートが開催されました。 いずれも充実した内容で、これまで同様、私たち聴き手を大いに楽しませてくれました。  あらためて出演者の皆様と、遠くからもお越しいただいた多くのお客様に深く感謝申し上げます。
その中で今回は、GWと7月に開催された天才ピアニスト・横山幸雄さん演奏のオールショパンコンサートのご報告をさせていただきます。 


4月29日 「第20回 軽井沢で楽しむオールショパンプログラム」 
=横山幸雄さんによるワルツ特集=
 
第一部 ワルツ特集 
 ワルツ第1番〜第8番  (作品18、34-1,2,3、42、64-1,2,3)
     ・・・ティータイム・・・
第二部 リクエストタイム  
 アンダンテスピアナートと華麗なる大ポロネーズ 作品22 
 バラード第1番 作品23 
 ノクターン第8番 作品27-2 
 幻想曲 作品49 
 舟歌 作品60
アンコール
 ピアノ協奏曲第2番 作品21 第2楽章(ピアノ独奏バージョン)  

     

第一部はショパンの生前に発表された作品番号付ワルツ、第1番から8番までの演奏でした。
第1番「華麗なる大円舞曲」と第2番「華麗なる円舞曲」では、横山さんの軽やかで繊細なタッチが、当時のサロンの洗練された華やかさを連想させてくれました。
第4番<通称猫のワルツ>の演奏では、ショパンコンクール時のブーニンを凌ぐほどのスピードとテクニックで私たちを圧倒しました。
「凝った構成でワルツの最高傑作」と横山さんが紹介した第5番では、確かな技術と華やかなコーダの盛り上がりに聴き手は酔いしれました。
最後の作品になろうとはショパン自身も思っていなかっただろうと同じく説明のあった作品64の3曲<第6、7、8番>では、マズルカ色の濃い第7番の淡々としたタッチが紡ぎ出す哀愁と、第8番の揺れ動く色彩感が印象的でした。

第二部では事前にお客様からいただいたリクエスト曲の中から、当日横山さんが選んだ5曲が披露されました。
なお今回も横山さんの全曲演奏会の直前のコンサートがアトリエブルックスのものとほぼ重なり、オペラシティでの作品番号付ショパン全曲演奏会を4日後に控えて、すべての演奏がいっそう完成度の高いものとなりました。
アンダンテスピアナートと華麗なる大ポロネーズでは、前半の滑らかなアルペジオが心地よく、細かいパッセージの連続で演奏技巧満載のポロネーズ部分の勇壮さとスピード感が際立っていました。
バラード第1番でもポロネーズの勢いは止まらず、陰鬱な第一主題からすがすがしい第二主題を経て劇的なコーダに向かう様は、物語的雰囲気に加えて、一大叙情詩を思わせる説得力でした。
続くノクターン第8番では、一転して柔和なタッチが天国的な旋律を上品に奏で、サロンにふさわしい優美な演奏となりました。
また幻想曲では、変イ長調に転調した後の確かなテクニックと迫力、そしてコラール部分の再現からラストにかけてのきらびやかさなど、ショパンの演奏技巧の極みの一曲と言われる醍醐味を存分に味合わせてくれました。
ラストの舟歌でも主題が回想される後半では、晩年のショパンが抱いていたであろう悟りの境地を味わい深く表現していました。またGWの軽井沢は桜の季節、その演奏の様はショパン自身が花降る午後に人生を振り返るといった趣きをたたえていました。

なおアンコールでは、横山さんが人前では初めて弾くというピアノ協奏曲第2番の第2楽章・ラルゲットをピアノ独奏バージョンで披露してくれました。ショパンが初恋の人コンスタンツィアを慕う気持が最も強く出ている楽章を、甘美な主旋律と展開部の焦燥感を対峙させながら、若かりしショパンの初々しさを淡々と表現しました。


7月15日 「第21回 軽井沢で楽しむオールショパンプログラム」 
=横山幸雄さんによるエチュード特集=
  
アトリエブルックス 軽井沢ギャラリー&サロン 5周年記念
第一部 
エチュード作品10 (1番〜12番)
ノクターン第8番 作品27の2 (
リクエスト曲)
スケルツォ第2番
作品31 (同) 

 
第二部
エチュード作品25 (13〜24番)
             
バラード第4番 作品52 (リクエスト曲)
ポロネーズ第6番 作品53 「英雄」 (リクエスト曲:アンコールに代えて)  

   

この日はアトリエブルックスのオープン5周年記念を兼ねて、横山幸雄さんのエチュード特集が開催されました。
エチュード全曲を横山さんがアトリエブルックスで披露するのは2009年以来の2度目、「以前より少し上達したかもしれない」という茶目っ気ある冒頭の挨拶が、サロン全体に和やかな笑いを誘いました。
さてエュード作品10では、クリアーかつビビッド、そしてスピード感あふれる演奏を披露してくれました。
3年前の演奏も十二分に魅了しましたが、とりわけ今回は1番の的確なアルペジオ、3番「別れの曲」の柔和な主旋律、4番のスピード感、5番「黒鍵」のきらびやかさ、7番と10番の確実でさりげないテクニック、12番「革命」の迫力と説得力は、前回にもまして私たちを酔わせてくれました。
また今回のノクターン第8番でも、その優美さに加えて繊細なタッチがもたらす柔和な表情と、右手の48連譜のキラメキが宝石のごとく際立っていました。
かわって劇的な構成で知られるスケルツォ第2番では、冒頭の凄まじい迫力と変二長調展開部の天国的な美しさ、さらには華々しいコーダの盛り上がりに聴き手は圧倒されました。 

途中横山さんも含めて恒例のティータイムを挟みましたが、アトリエブルックス5周年ということもあり珍しいスイスワインで乾杯、大いに話が弾みました。 
その後の第二部のエチュード作品25の12曲でも横山さんの演奏はさらにヒートアップ、聴き手はそのライブ感と完成度に酔いしれました。 
13番「エオリアンハープ」のロマンチックな旋律と寄せては帰る左手アルベジオ、15番の芸術的トリル、18番の超絶技巧的なスピード、21番「蝶々」の軽やかで流れるような躍動感、23番「木枯らし」の右手の繊細かつ大胆な下降音階と的確なテクニック、そしてラスト24番「大洋」の左右ダイナミックなアルペジオは、聴き手を大海原のうねりの真っ只中にいるような臨場感を味あわせてくれました。
続くバラード第4番では冒頭から曲の難易度をものともしない集中力と気迫に満ち溢れ、コーダの一種不可解な旋律からラストの下降音階に向けての盛り上がりは、一大物語のクライマックスにふさわしい演奏となりました。
さらに英雄ポロネーズを、変わらぬ気迫と卓越したテクニックで立て続けに弾きこなす様はまさに圧巻でした。

2012年の横山幸雄さんの春と夏のオールショパンコンサートでは、曲のクライマックスに向けて聴衆を見事なまでに作品世界に引きずり込む演奏技巧と説得力に圧倒され、ピアノを愛したショパンの生き様と作品世界をこれまで以上に堪能することが出来ました。 

【2013/01/03 18:18】 コンサート報告 | TRACKBACK(-) | COMMENT(-)
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