2011年、夏のショパンコンサートのご報告

この夏はお盆過ぎから雨が多く、昨年より涼しい日が多かったようです。時に10℃近くまで下がる晩もあり、8月後半は夏と秋の間を行ったり来たりでした。
それでも雲間から顔を出す太陽が、高地特有の強い日差しを浴びせ掛け、蝉たちの合唱を森に響かせました。
さて2011年、夏のオールショパンコンサートのご報告です。今年は7月に横山幸雄さん、8月に初登場の仲道祐子さんのコンサートが開催されました。いずれも多くのお客様がピアニストの熱演に酔いしれ、昨年同様、聴き応えのあるコンサートとなりました。  
では早速7月の横山幸雄さんの演奏から順にご報告したいと思います。 


「第18回 軽井沢で楽しむオールショパンプログラム」
 <横山幸雄さんによるノクターン特集>
日時 : 7月17日(日) 16時開演 定員50名様 
ピアノ : 横山幸雄 (プレイエルP190使用)
曲目
  
 1)
ノクターン作品9-1
,2,3 (1,2,3番) 
 2) ノクターン作品15-1,2 (4,5番)

 3) ノクターン作品27-1,2 (7,8番)
〜 ティータイム 〜 
 4) ノクターン
作品48-1,2 (13,14番)
 5) ノクターン作品55-2 (16番)
 6) ノクターン作品62-1,2 (17,18番)
以下リクエスト曲 (アンコールに代えて)
 7) アンダンテスピアナートと華麗なる大ポロネーズ
 8) 幻想ポロネーズ   

    


アトリエブルックスでは今年のGWからジャンル別の企画となった横山幸雄さん、その2回目の今回はノクターン特集となりました。
先ずは作品番号の若い順に作品9の3曲の演奏でした。いずれもプレイエル社長、カミーユ・プレイエルの妻であるマリーに捧げられた初期の作品で、そのロマンに満ちた作風を反映させた演奏となりました。仄かな雰囲気をかもし出す1番の緩急、2番の装飾音(ポーランドナショナルエディッション版)のきらびやかさ、3番の中間部の勢いと、主題再現部からコーダの下降音階にかけての繊細さが印象的でした。
作品15の4番では、主部のクリアーなタッチとトレモロの続く中間部の激しさが、また5番ではやはり流麗な右手の装飾パッセージが印象的でした。
作品27の7番では主部の静謐な味わいと、バッハのオルガン音楽に迫る和音の響きがドラマチックでした。また当時伯爵夫人に献呈され、貴婦人のノクターンとも言われる8番では、調性と旋律の絶え間ない移り変わりを、プレイエルの甘くきらびやかな音色を最大限に引き出しながら披露してくれました。 
ティータイムを経て、第二部は作品48の2曲からの演奏でした。とりわけ人気の高い13番では、中間部のコラールを仄かなアルペジオと和音で彩り、オクターブの連続は再現部へ向けて十分な盛り上がりを見せました。また再現部では迫り来る勢いを確かなテクニックで表現していました。14番では調性の移ろいと、ややもすればつかみどころの無い旋律を切なくまとめていました。
作品55の16番では、左手のアルペジオと右手の旋律の掛け合いが印象的で、ポリフォニックで色彩感覚溢れる演奏となりました。
ショパン生存中最後に出版されたノクターン作品62は、いすせれもサンドとの破局後に書かれた晩年の傑作とも言われ、適度なルバートや強弱を効果的に駆使した味わい深い演奏となりました。とりわけ17番では再現部のトリルがはかなく、転調した終結部の安楽ともいえる様は心に迫るものがありました。またホ長調18番の示す安堵感は悟りに近い明るさを呈し、ゆえにショパン晩年作品として説得力のある演奏となりました。
アンコール代わりのリクエスト曲では、事前に複数の方から希望のあったポロネーズの2曲が披露されました。
1曲目の「アンダンテスピアナートと華麗なる大ポロネーズ」は、横山さんの技量と勢いを目の当たりにした演奏となりました。序奏部分のアルペジオの流麗さ、後半のポロネーズ部分のスピード感と装飾音の確かな技術、そしてこれでもかというコーダの盛り上がりに聴き手は満場の拍手を浴びせました。
また2曲目の「幻想ポロネーズ」は、二ヶ月前の5月にショパン212曲を完全走破してギネスに再登録された際のラストと奇しくも同じ曲となりました。序盤の幻想的な響きにショパンの悟りと葛藤を感じ、その後の美しくもつかみどころのないポロネーズ部分をまとめ上げた構築力と表現力は横山さんならでの演奏でした。また再現部からコーダにかけての安楽な様は、時代と境遇は全く異なるものの、212曲完全走破を成し遂げた奏者の気持ちと相通ずる部分を感じました。
今回の横山幸雄さんのノクターン特集、ピアニストとしての数多くの実績が演奏にいっそうの味わいを付与し、聴き手にさらなる感動をもたらしました。
なお次回の横山さんの演奏は来年GWのワルツ特集です。 


「第19回 軽井沢で楽しむオールショパンプログラム」
 <仲道祐子さんによるスケルツォ全曲他の演奏> 
日時 : 8月20日(土) 16時開演 定員50名様 
ピアノ : 仲道祐子 (プレイエルP190使用)
 1) ポロネーズ  
         第1番
嬰ハ短調Op.26-1
     第3番 イ長調「軍隊」Op.40-1
 2) 6つのポーランドの歌
ショパン/リスト編曲
       乙女の願い、春、指輪、バッカナール、私の愛しい人、家路
 3) プレリュード
         第15番 変二長調「雨だれ」Op.28-15 
            〜 休憩 〜
 4) スケルツォ

       第1番 ロ短調Op.20
         第2番 変ロ短調Op.31
         第3番 嬰ハ短調Op.39
         第4番 ホ長調Op.54
 
 5) アンコール
     春に寄す   グリーク
     乙女の祈り  リスト 
          〜 ティータイム 〜     

 
   

ベージュ地に鮮やかなピンクのドレスで登場した仲道祐子さん、まずはポロネーズ1番の演奏から入りました。その出だしの付点和音はクリヤーで明快、ピアニスト自身の特徴を凝縮しているようでした。中間部は一転して柔和に表現し、ショパンが故郷を懐かしむ心境とやるせなさが自然体で披露されました。
ポピュラーな軍隊ポロネーズも和音の力強さと、各フレーズの終わりの一音一音かみしめるようなタッチが印象的でした。
リスト編曲の『6つのポーランドの歌』では、リストがショパンの原曲(歌曲)のイメージを尊重したという仲道さんの説明通り、民族的雰囲気の漂う中、歌曲としての魅力を引き出した演奏となりました。  
とりわけ「乙女の願い」では軽やかなマズルカのリズムが小気味良く、粒のそろった高音部が印象的でした。「バッカナ−ル」では目まぐるしいメロディーと拍子の移り変わりに、まるでオペレッタを観劇しているような気分に浸りました。また「私の愛しい人」は左手のゆったりとした流れと右手のきらめきに、爽やかな安息を感じました。
『雨だれ』では淡々としたタッチに、ショパンが恋人ジョルジュ・サンドとともに逃避行したマジョルカ島の雨の光景が目に浮かぶようでした。
濃紺のドレスに着替えた仲道さん、後半は『スケルツォ全曲(4曲)』という聴き応えある演奏となりました。
「1番 ロ短調作品20」では出だしのクリヤーな和音に始まり、左手の不協分散和音の鋭さと、右手の技巧的パッセージの流麗さが際立っていました。ポーランドのクリスマス・キャロルからヒントを得たという中間部は、旋律の右・左手の入れ替わりがスムーズで、淡々としたタッチの繰り返しが聴き手の想像力をかき立てました。
「第2番 変ロ単調作品31」では劇的な出だしと、転調後のアルペジオに支えられた天国的な旋律が対比をなし、スケルツォらしい快活さを表現していました。流れるような右手の中間部を経て、再現部からコーダに向かう自然な盛り上がりは、聴き手の心を惹き付けました。
「第3番 嬰ハ短調作品39」は、序奏のユニゾンとは打って変わるオクターブの力強さと、随所に降り注ぐアルペジオの透明感が印象的でした。また再現部からコーダに向けてはバッハのオルガン曲を思い起こさせる華々しさを放ち、手の大きな仲道さんならではのスケールの大きな演奏となりました。
スケルツォとして最後に作曲された「第4番 ホ長調作品54」では、 明るいスタッカートと素早いパッセージを織り交ぜた複雑な構成を歯切れ良くまとめ、物憂げな中間部はゆったりと存在感ある演奏となりました。また3番同様コーダは力強く、終結部らしい華やかさを放っていました。
アンコールは北欧のショパンとも言われるグリークの『春に寄す』と、今年生誕200年のリスト『愛の夢』でした。前者はプレイエル特有の中高音を繊細に響かせ、後者では人気曲の優美さをストレートに表現して感動を呼びました。
初登場の仲道祐子さんの演奏ではしっかりとしたタッチとクリアーな音色で曲を正面から捉え、洗練されたショパンが聴き手の心を魅了しました。
  


        
 


今年の「軽井沢で楽しむオールショパンプログラム」は、以上のコンサートをもって無事終了いたしました。3月に東日本大震災が発生し一時はどうなることかと思いましたが、原発事故も含めて未だ大変な時期にこうして開催出来たことは、素晴らしい演奏を披露して下さったピアニストのお二方と、遠くからもお出でいただいた多くのお客様のお陰であると、心より感謝申し上げます。またこれらコンサートの売上の一部は、予定通り日本赤十字社、または被災地により近い機関に直接寄付させていただきます。
来年のオールショパンコンサートはGWからのスタートです。日本全国に1日も早い春の訪れを祈りつつ、皆様との再会を楽しみにお待ちしております。 



【2011/09/05 03:32】 コンサート報告 | TRACKBACK(-) | COMMENT(-)
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